「ゴーッ」。低く鈍い音が響き、熱風と炎に巻かれる大甕(がめ)?。備前焼の岡山県重要無形文化財保持者・森陶岳さん(78)=瀬戸内市牛窓町長浜=が同所に築いた空前の「新大窯」(全長85メートル、幅6メートル)に火が入って、間もなく3カ月。内部の温度は一部で1200度に達し、窯焚(だ)きはいよいよ佳境に入った。
新大窯は森陶岳さんと弟子6人が昼夜問わず、交代で火を守り続けている。現在は窯の横に開いた小穴(直径約30センチ)から薪(まき)をくべ、隅々まで温度を上げて作品を仕上げていく横焚きが本格化している。
「バチバチ」。薪がはじける音が絶えることなく聞こえる。松やヒノキの割り木は投入する度に炎にのみ込まれ、近くの穴から炎が噴き出す。長さ1・5メートルの竹も火花を上げてすぐに燃え尽きた。
距離を取ってのぞくと、人が入れるほどの大作「五石甕(ごこくがめ)」(焼成前の高さ1・65メートル、胴径1・4メートル)がうっとりするようなオレンジ色に輝いて見えた。
小穴は左右それぞれに96カ所あり、すべてに番号がふられている。作業は2人一組で行い、「温度にむらが生じないよう、左右で息を合わせて同時に進めていく」と、弟子の吉田多喜子さん(46)=瀬戸内市。薪を足す時も、大窯の反対側にいる相方に、その場所の番号を知らせてからくべる。
窯内は正面の焚き口から約20メートル付近の温度が1200度に達していた。最上部の「けど」近くも600度。「傾斜した窯の中を今まさに炎がうねりながら登っている」と、作業に目をやる森さんが力を込めて言った。
用意した薪4千トンはすでに半分を使用。窯焚きは順調に進み、大窯の表面に数十センチから1メートル程度のひび割れがいくつもできた。大窯は耐火れんがを3層に重ね、厚さ50センチに仕上げたといい、森さんは「まるで地殻変動のようなひびで、十分に焼けている証明でもある。これが大窯が蓄えた熱の力なのか、本当に驚かされる」と話している。
窯焚きは4月中旬までには完了し、3カ月掛けて冷却。7月から窯出しを始める予定。
大窯プロジェクト
森陶岳さんが1970年ごろ着手。集大成となる新大窯は、全長50メートル前後の窯2基での経験を基に2000年から8年かけて築造した。「五石甕」など大甕97点と大小のつぼなど数千点を詰め、1月4日に火入れ。今月22日から横焚きが本格化している。