就活 社会のルールにのれない、のらない レンタルニートも
4月初旬。岡山県内に暮らす里香さん(29)=仮名=は、東京を訪れていた。外では桜が満開だが、楽しむ余裕はない。上京の目的が就職活動だからだ。
都内の難関私立大出身。3年生のとき、アルバイトをきっかけにあこがれを抱いたマスコミ業界に絞って就活したが決まらず、就職留年した。「就職氷河期が終わり、売り手市場と言われた時期。何とかなるだろうと楽観視していました」
ところが、2008年のリーマン・ショックによって状況は一変した。内定取り消しが相次ぎ、就活は一気に厳しいものに。10年春の大卒の就職率は前年を7・6%下回る60・8%となり、調査開始以来最大の下げ幅を記録した。就職難から就職留年を選ぶ人や大学院へ進学する人も増えた。
里香さんもなんとか内定を得ようと、業界を問わず60社以上を受けたが決まらず、卒業後は派遣会社に登録して働いた。1年半ほどお金をため、ワーキングホリデーでアイルランドへ。その後、ヨーロッパや南米を旅して3カ月前に日本に戻ったが、新卒ではないこと、正社員としての職歴がないことがネックとなり、就活は苦戦している。
「新卒一括採用」は、世界でもまれな日本独特のシステムだ。企業にとっては、採用や教育研修を効率的に進められるというメリットがある。一方、求職者にとっては、採用が景気に左右されやすく、「新卒」のカードがないと求職のスタートラインにすら立てないという、高い壁を生み出している。
深刻な就職難を受け、政府は10年、「卒業後3年以内は新卒扱い」とするよう経済界に要請。ここ数年、導入する企業が増えてきてはいるが、新卒と全く同じ条件ではない会社もあり、そもそも既卒4年以降では対象外となってしまう。
欧米では企業ごとに欠員が出れば補充する仕組みだ。学生の多くが在学中から企業で働くインターンシップを長期間経験し、その実績が入社に有利に働く。終身雇用が一般的な日本と違い、キャリアやスキル向上のための転職も当たり前だ。
「日本では一度レールから外れてしまうと、やり直すのが難しい。海外を見てきたからなおさら、なんて窮屈で理不尽なんだろうって苦しくて」。里香さんの表情は暗い。
就活のあり方に疑問を感じ、大学卒業後、就職も進学もしない「ニート」を選んだ若者もいる。埼玉県川越市の仲陽介さん(26)。全国から募ったニート約170人が出資して全員が取締役となり、13年11月に設立した「ニート株式会社」の一員だ。
就活は、企業の合同説明会に数回行ったきりやめた。「志望動機や自己PRなど、自分を殺し、企業の求める人材であるかのように見せかけなければ採用してもらえない。何のためにそこまでするのか分からなくて」。そんなときに「ニー株」の募集があり、「新しい面白いことができそう」と参加した。
メンバーはチームに分かれ、Tシャツの製作、ゲームの開発、ウェブ配信などを行っている。仲さんが企画して取り組むのは「レンタルニート」。1時間千円で、ゲームの対戦相手になったり、秋葉原を案内したり、食事に付き合ったりと「遊び相手」になる事業だ。
ただ、申し込みは、月に数件で、2万円程度の収入にしかならない。実家暮らしだからこそ生活できている。仲さんはそれを「広報宣伝活動の一環だから」と割り切り、アプリの開発、外部企業とのコラボなど次の事業を立ち上げようと、メンバーとアイデアを出し合う。
メンバーには、引きこもりも、コミュニケーションが苦手な人もいる。「社会一般のルールに乗らなくても、お金が稼げるって証明したいんです」
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